連載でお届けしている「切り絵でみる仏教説話」では、切り絵を通じて色々な仏教のお話を紹介しています。
皆さんは『天才バカボン』の中に出てくるレレレのおじさんをご存知でしょうか。いつもほうきを持って「おでかけですかー?レレレのレー♪」と尋ねてくるあの愉快なおじさんキャラクターです。実は、あのレレレのおじさんにはお釈迦様の弟子の一人がモデルになったと言われています。今日はそんなお釈迦様の弟子チューダ・パンタカという方のお話です。
ある仲の良い兄弟がお釈迦様の弟子の中にいたそうです。兄の方はとても聡明で深く仏教に帰依していましたが、弟のチューダはとても物覚えが悪いことで有名でした。お釈迦様のお話を聞いてもすぐに忘れてしまうだけでなく、自分の名前も覚えられないくらいだったので、名前を書いた札を首から下げていなければならないほどだったそうです。
そんな様子なので、兄はいつもチューダのことを気にかけ面倒をみていました。しかしチューダはある時、決心して申し出ます。
「お釈迦さま、私はあまりにも愚かです。だからもうここには居られません」と。
するとお釈迦さまは「チューダよ。自らを愚かだと知っている者のことをどうして愚か者と言えるだろう。自分を賢いと思い上がっている者こそ本当の愚か者ではないだろうか」とおっしゃって、「チューダよ。これからは毎日「塵を払い、垢を除かん」と唱えながら掃除をしなさい」と一本のほうきを渡します。明くる日からチューダは、だだひたすらに「塵を払い、垢を除かん」と唱えながら掃除に励みます。最初は他の人もそんなチューダを馬鹿にしましたが、月日が経つにつれ、お釈迦様の言いつけをひたすら守り、毎日欠かさず掃除に打ち込むチューダのことをバカにする者はいなくなっていきました。
そして、チューダは毎日無心で掃除をする中で、お釈迦様の言葉の本当の意味に気付き、ついには悟りを得ることができたと伝えられています。
初めてこの話を聞いた時「自らを愚かだと知っている者のことをどうして愚か者と言えるだろう。自分を賢いと思い上がっている者こそ本当の愚か者ではなかろうか」というお釈迦さまの言葉はとても印象的だったことを覚えています。「たくさん物事を知っている方が賢いはずだ」と思い込んでいたからです。本当の賢さというのは決して誰かを蔑んだり貶めたりするためにある訳ではなく、物事の本当の姿をあきらかに見ることで誰かを安心させる為にあるのかもしれません。
今後も「切り絵にみる仏教説話」では、仏教にまつわるお話を通じてそこに説かれている教えを少しずつ読み解いていけたらと思います。
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